こんにちは!高畠町地域おこし協力隊の
松原由侑(まつばらゆう)です。
あまりの寒さにストーブを消せなくなるシーズンが到来しました。すでに電気代が気になっています(笑)
農業の盛んな高畠では、いろんな食べ物が実る季節。
第4回目となる今回は、野菜農家の「しゃんくすろーど」さんでお仕事体験です。
以前はぶどう農家さん(高畠トライアル記事「大野農園」さん参照)に行ってきましたが、今回は野菜がメインの農家さん。土との触れ合いが多くなりそうな予感です。
高畠で奮闘する農家の青年に密着しますっ!
~芋の収穫から商品になるまで~
仕事体験をさせていただいたのは10月のことでした。
秋といえば食欲の秋…。美味しいものがいっぱいの季節…。
『しゃんくすろーど』という屋号を掲げ、農業に励む 鈴木将道(すずき まさみち)さんの畑では、さつま芋と里芋を中心に年間で10品目ほど野菜の生産を行っています。
ちょうど、さつま芋と里芋の収穫時期を迎えていたこともあり、さつま芋掘りに同行させていただくことに。町内に何ヶ所か畑があるそうで、さつま芋は高畠ワイナリーさん近くで栽培しているとのこと。
さつま芋掘りと聞いて、私は手で引っ張って出てくることを想像していましたが(笑)、そんな幼少期の遠足みたいなものとは当然違って、広範囲にわたっての栽培となればもちろん機械です。
トラクターに取り付けられた掘り取り機で あっという間に掘り起こされた芋を、私は蔓から切り離してカゴへ入れていきます。大小さまざまなサイズの芋がいっぱいです。
「葉が生い茂っている状態から葉を一度刈る」→「蔓を除けてマルチをはがす」→「機械をかけて芋を掘り出す」というのが、収穫までの流れです。
マルチを剥がす作業にも取り組みましたが、蔓が絡まり合っていて、なかなか手がかかる作業ですね。
マルチとは土壌表面を、稲わらや専用のシートなどで被覆することです。作物のすぐそばに生える雑草は、本来作物に届くはずの栄養をも吸収し、作物自体の生育を不十分にしてしまいかねません。マルチにはそうした雑草が生えてくるのを抑止する効果があります。
作物のため、そして雑草を抜く手間を省くためにも、畑が広いほどマルチの果たす役割は大きいようです。
収穫後、さつま芋は0.10㎏以下、0.10~0.20㎏、0.20~0.40㎏、0.40㎏以上の4種類の重さに分別します。主に0.20~0.40㎏クラスの芋が商品としては好まれるようです。
分けた芋は洗い、乾かしてから袋に入れて販売します。
さつま芋を計量し、サイズごとにかごに分けていきます
続いて、里芋の収穫も体験させていただきました。
里芋もさつま芋同様、機械で土を掘り起こしていきます。しかし、里芋の場合は茎から下は親芋にくっつくようにして大量の子芋が実るので、芋を取りやすくするために、こちらの機械、里芋分離機を使用していきます。
レバーを引いて、里芋の塊を上から押して分離していくのですが…これがものによってはめちゃくちゃ固いのです…。私はレバーを押しながら何回かジャンプして割ることも(笑)
分離して小さくなったものの土を払って、一旦乾かします。
大型扇風機の力も借りながら、数日間の乾燥後、選別機にかけて芋を大きさごとに割り振ります。
選別機は小さいものから順に下へ落ち、下へすり抜けなかった大きな芋が一番最後に出てくるという仕組みです。ここまで経て、ようやく芋が販売できる状態になります。
里芋をゴザの上に並べて乾燥中… ⇒ 選別機にかけ、大きさごとに振り分けていく
~農業への取り組み方と、その想い~
しゃんくすろーどで育てる野菜は基本、無農薬です。
規模の大きさを考えると、無農薬での栽培は大変そうにも思えるのですが、鈴木さんはあまり農薬に頼りたくないとのこと。無農薬でなければ出せない売り先があることも使わない理由です。
さつま芋掘りの際に、私は一部欠けている芋を何個か見ましたが、もちろん農薬を使わない分、ネズミにやられてしまうものもあります。それでも商品になるものの方が多いため、薬の必要性は感じていないとのこと。ちなみに肥料も使わないため、さつま芋に関してはとことん自然栽培です。
一方、今年栽培に着手したカボチャは、農薬不使用ではネズミの被害がひどいとわかり、今後は栽培しない方向でいるそう。
そうしたトライアンドエラーもしながら植える作物が少しずつ変わっていき、現在、しゃんくすろーどではさつま芋を筆頭に、里芋、最近力を入れているというキャベツ、レタスを軸に、ピーマン、白菜、枝豆、大根、玉ねぎ、にんにくを育てています。
主力となる野菜の栽培工程の中で合間に栽培できるものをと思い、様々野菜を作り始めたことで品目が多くなっていったと言います。
それ以外にも、屋外の仕事ならではの理由がありました。
「さつま芋や里芋だけなど一種類に絞って栽培するとリスクが大きい。さつま芋を植えている畑は以前に大雨で水没したこともあったし、農作物はその年の天候とか気温とかによって品質が左右されやすい。こっちの野菜がだめでも、あっちの野菜は大丈夫という状態を作っておいた方が安心できるので、複数種類の栽培にはリスク分散という意味があります(鈴木)」
それに、と鈴木さんは言葉を続けました。
「いろんな野菜を育てるということは、いろんなゴールがあるということでもある。それぞれ過程が違うから大変ではあるけれど、収穫というゴールの数が多いと達成感を感じる機会が増えるし楽しい(鈴木)」
鈴木さんのご実家は、米農家であり、酪農家でもあります。
昔から農に親しんできたこともあり、農業への関心が高まったことから農業高校を卒業、農林水産省の農作業安全を研修する施設に2年ほどいたのち、大手スーパー直営の農場で勤務、23歳のとき高畠へ戻ってきました。
最初はコンビニでバイトもしながら家の農仕事の手伝いをしていたそうですが、徐々に自分でも作物づくりに取り組むようになり、将来的には会社を作ることを決めたとのこと。
『しゃんくすろーど』という屋号は理想郷(シャングリラ)と感謝(サンクス)、そして自分の名前に使われている漢字、道(ロード)を合わせてつくったとのことで、お客様、地域、そして家族へ感謝の気持ちを持ち、道を切り開いて自分の描く理想郷を、この自然豊かな高畠でつくっていこうという想いが込められているそうです。
毎日この想いを胸に、高畠で農と向き合う人がいるのだなあと思うと、私自身、農作物を食べるときに、より感謝の気持ちが湧いてきそうです。
~野球にもアツい男~
体験期間中、よねおりかんこうセンターで地産マーケットが開催されました。
しゃんくすろーども出店するとのことで、販売を体験させていただくことになりました。
当日の朝、さっそく焼き芋の機械をセッティング。今日は、そのままの野菜のほか、焼き芋を販売するとのこと。イベントが始まるまでまだ時間は十分ありますが、芋を温めるために早く来る必要があるのです。
本日店頭に並ぶ野菜は、さつま芋、里芋、ピーマン、キャベツに白菜です。
キャベツと白菜は朝採れです。うーん、瑞々しい。つやつやの野菜たちが顔を張って、身を寄せ合っているかのようです。
早く売り切るぞ!という意識を持って売るのが大事と、気合十分の鈴木さんもお店の前で一枚。
これを見て多くの人が、一体なぜ彼はその服を着ているのかとお思いになったかと思いますが、聞けば、横浜DeNAベイスターズのファンだとのこと。
好きなアーティストのライブを観に横浜へ行ったのを機に横浜を好きになり、もともと野球が好きだったこともあいまって、ベイスターズを応援するようになったのだそう。
今朝、鈴木さんのこの姿が目に飛び込んできたとき、私は一瞬何かと思いました(笑)
今日は試合がある日ゆえに、堂々と柴田選手のユニフォームを着用しているんですね。
(結果として、この日は巨人に勝ち、翌月11月に横浜は26年ぶりの日本シリーズ優勝を果たした。そうして鈴木さんもまた大歓喜し、後日、オンライン販売でセールを開催したとのこと。)
横浜絡みの話で印象に残っているのが、高畠町が関わっている販売イベントが横浜の栄区で予定されていると知った際に、鈴木さんは出店させてほしいと町までお願いの電話をしたが、場所がないことや出店者が決まっていること等々を理由に断られたというお話。
町と横浜の栄区が交流ある関係だということを最近になって知り、横浜に想いを寄せている彼としては、とても残念だったそうです。
しかし、そこで悲しんで終わらないのが鈴木さんです。販売の機会を探るためにも実際の雰囲気を見てみたいという想いから、プライベートで足を運ぶとのこと…!そこまでして自分の野菜を売ろうと一生懸命になるなんて…流石です、アニキ。
~生産者と消費者、互いの顔が見える販売~
こうした催事への出店は年間10回ほどで、10月に関してはほぼ毎週のように土日になると店を出すそうです。今年は役場からのお声がけもあり、東京に3回ほど販売へ出向いたそうですが、郵送費を抑えるためやリピーター増加の目的から、販売はなるべく置賜地域に絞るようにしているのだそうです。
ところで、鈴木さんの野菜は普段から、よねおりかんこうセンター内で販売されています。
販売形態が変わると同じ商品でも何か違いはあるのでしょうか。
「対面で売るときは、無人で売るときよりも金額は高めに設定しています。それは人件費のこともあるけれど、自分が育てた、選別した、洗った、朝採った…そういう栽培から収穫までのストーリーを直接伝えてお客さんとコミュニケーションを取るということには、ただ野菜を置いて売るより、より価値があるからです(鈴木)」
私たちは日頃、スーパーの棚から野菜だけを見て選び、買い物をしています。
ですが、生産者の姿が直接見える販売では、その人となりや想い、苦労、工夫など、一つの野菜が出来上がるまでの過程を消費者に知ってもらうことができますし、消費者である私たちもまた、声掛け一つでそれらを知ることができる機会なのです。
それは、ただただ袋詰めされた野菜を買うことでは得られない情報です。付加価値になっているわけですね。
私も微力ながら販売に加わります。
白菜の売れ行きは好調。営業開始早々に5つあった白菜はすべて売り切れてしまうほどでした。
これから季節は芋煮会の時期。それもあってか、次第に里芋も売れていきます。
朝が寒かったこともあり、焼き芋をご購入される方もちらほらとみえてきました。
さらなる販売促進のため、私はポップづくり。少しでも販売に繋がればいいなぁ。
挨拶をして声を掛けたり、朝採れアピールしたり、どれがいいか選んでもらったり、お金を受け取ったり、商品を渡したり…周辺でできそうなことをちょこちょこやります。
昼間があたたかかったこともあり、まだまだいっぱいあった焼き芋は、終盤に差し掛かったころ、他の商品をご購入のお客様にサービスで少しずつお付けしていきました。
たとえ予定していた通りのやり方ではないとしても、臨機応変におまけとして渡し、食べてもらえれば、さつま芋の宣伝につながります。
最終的に残ったのは、キャベツ一個、里芋は数袋というくらいで、ピーマンとさつま芋は完売しました。前回よりも全体的に多めに揃えたそうですから、売れ行きはなかなかよかったようです。
作り手の顔どころか、実物を見なくても商品が買えてしまうこの時代でも、リアルでの売り買いというのは、心の通う会話と交流を生み、笑顔をもつくる。私たちの生活に手触りを与えてくれる、いつの時代になっても取って代わらないものに改めて気づかされた気がします。
~身近なところから広がる販売先~
鈴木さんの一日のスケジュールは、主にこのような感じです。
午前中に各学校や直売所などへ持って行き、日中は畑作業を中心に、夕方からはビニールハウス内で選別や袋詰めの作業を中心に進めます。朝はその両方の作業を適宜行います。
イベントなどに出店の日は朝5時には動き始めたり、雨の日はずっとハウスにいたり…その日ごとに作業や時間に変動はあるものの、一日中、動いてばかり。常に体力勝負です。
6月終わりから11月頃までは丸一日休みの日はないそうで、やはり農家さんは忙しいですね。
体験に伺ったある日、これから商品を届けたり販売したりしに行くとのことで、トラックに同乗しました。
まずは小学校。全校生徒の人数を考えると、ごく少量ですが、それでも同じ地区だからと依頼があればすぐに配達へ伺うのが日常です。
続いて保険会社へ。そこは鈴木さんが加入するにあたって訪問販売をさせてほしいとお願いしたそうで、ときどき出向いて売ることに至っているとのこと。
保険会社側も営業ですから、こちらも負けじと営業しているわけですね。
主な販売先としては、
・訪問販売…町役場、保険会社、美容室など
・教育機関へのお届け…保育園、小学校、中学校など
・直売所…愛菜館、四季菜館、太陽館、よねおりかんこうセンター
の3種類です。
最近では毎週水曜に町役場へ販売に出向いていますが、そうした直接販売を優先的に行い、しゃんくすろーどの拠点がある亀岡地区内の保育園や小学校をはじめとする各種学校へ依頼があり次第届けに行き、収穫量や作業時間を考えて、様子を見て直売所に卸しに行っているそうです。
鈴木さんは販売価格の設定が安いことと、出せる品目が限られること、総じて自分の考えている商売のスタイルには合わないという理由から農協には出さず、暮らしの中でできたご縁を活かして販売先を広げていっています。
最近では販売の要望をいただく回数と量が増えてきたそうで。いろんな所からたくさん注文が入るって嬉しいことですよね、と私が言うと、鈴木さんからは、ありがたいことだけど担い手がもう少しいて欲しいという意外な言葉が返ってきました。
え、でも、自分の商品が多くの人の手に渡るし、顧客を獲得できるのになんでですか?と思わず質問しました。すると、
「自分と同じくらいの歳で、同じような農業をしている人が近くにいたらいいのにって思います。なんか張り合いがなくてつまらないんですよね。競合するような人がいた方が、こっちももっとあれやろうとか、これ頑張ろうとかって思えるし、その方が仕事に燃えます(鈴木)」
なんとも、さすがスポーツがお好きなだけあって闘争心が強いというか、起業家精神旺盛な回答が返ってきました。一緒に切磋琢磨できるようなライバルの存在を欲しているのですね。この男…アツい、アツいぜ。
~農業だって、ものづくり~
鈴木さんの今後の展望は、しゃんくすろーどを正式な会社にすることです。
実はここまで書いてきたこと以外も含めて、仕事は全て鈴木さん一人で行っています。
いやあ、やっぱ流石です、アニキ…と言いたいところですが、私が見る限りでも仕事量があまりにも多く思えますし、本人もそろそろ限界を感じているそうで、人を雇えるようにしたいと話していました。弟子を一人くらい持つことも考えているとのこと。アニキの背中を見ながら、農業を学び仕事にしていくなんて…きっとその人もアツい人に違いありませんね。
それから、動画共有プラットフォームYouTube。4年前から自身の活動を動画に取り、ネット上にアップしています。最近はショート動画が中心になってきていますが、今後もっと注力したいとのこと。
記事の最後に、しゃんくすろーどさんのYouTubeリンクを掲載しておきますので、よろしければご覧ください。おススメは「山形県高畠町 「有機栽培」サツマイモ」という動画。
小学校で「有機給食を食べる日」があったそうで、その日に合わせて動画を作ってほしいという学校側の要望に応えて撮った動画とのこと。さつま芋の生育過程がよくわかる内容です。
鈴木さん、ご自分では陰キャ(「陰キャラ」の短縮語。自己主張をあまりせず控えめな人物や、社交的な場面を避け、自分の世界に引きこもりがちな人物を指す言葉)と言っていましたが、全然そんなことを感じさせない姿がたくさん映っています。
体験期間中に私も見たことない陽キャな鈴木さんの様子に、私は驚いています(笑)
「自分が作った物を売ること、それもお客様に対面で販売することは、人とコミュニケーションを取ることが好きなのもあって、やりがいを感じます。近所の学校の給食で使ってもらっていることもあって、消費者からの声を聞きやすいというのも嬉しいです(鈴木)」
体験終了後、この仕事に熱を注ぐ背景を伺うと、鈴木さんはこのように話されました。
ものづくりというと、車など金属加工品のほか、家具や伝統工芸品などが思い浮かびます。最近ではアクセサリーなどのハンドメイド作品も増えてきていて、身近にものづくりが感じられるようになったなと思っていますが、農業って、そうしたものづくりと一緒だなと思うのです。
職人が一切手を抜かず、目の前の工程と向き合い、丹精込めて丁寧に一つの作品をつくる。その日々の中で技を磨きながら、試行錯誤を重ね、改良を何度も行い、もっと人に喜んでもらえるようにとまた一つ、二つと作品をつくる。その毎日に終わりはなく、ずっと続いていく。
ものづくりと聞いて、いままでピンときていなかったけれど、農業だってまさしくものづくりです。
ダイレクトに想いが交差するリアルなコミュニケーションを、鈴木さんは野菜を作ることを通して形にしています。買う人、食べた人の声が自身に気づきと喜びをもたらす。ハードな日常の原動力になっているようです。
もちろん機械にも頼るけれども、そればかりではありません。
人の手でしかできないこと、人の手だからこそ宿る想いがあります。
農業とは、どこまでも地に足のついた手仕事です。
高畠町を含む置賜地域、ひいては日本の食卓を彩る野菜たち。
それは、しゃんくすろーどの土でも育てられています。
以上、しゃんくすろーどさんでの活動報告でした!
ところどころ、鈴木さんの仕事への想いの丈が溢れ出る瞬間があって、何度胸を打たれたことか(笑) 日々、土と向き合う地道な裏方の作業から、人前に出て売る販売、SNSのための写真や動画の撮影と編集まで一人でやってのける鈴木さん。仕事にひたむきに取り組む姿勢には、周りの人たちも応援したくなりますね。
生真面目でアツい漢、若き農家の今後の活躍に乞うご期待!
ちなみに、さつま芋は私が主催の遊ぶ企画「レクキャン」で、焼き芋として使用しました!皆さんからは美味しい連発でした~!
次の体験先ではお菓子に囲まれてお仕事かも…⁉ です( *´艸`)
それではまた次回、お楽しみにぃ~☆彡
【今回の体験先】
屋号名:農家の店 しゃんくすろーど
住所:〒992-0324 山形県東置賜郡高畠町大字入生田104
電話:090‐2990‐7164
★鈴木さんのYouTubeチャンネル『エコ農業チャンネル「しゃんくすろーど 」』
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